平成27年12月6日(日) 於 代々木倶楽部
兼題 【 落葉、短日、息白し 】
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やうやくに空車の赤灯暮れ早し | 先生 奈良 文夫 |
枯れきつて多摩の川原や鳥の声 | 大野 鶴子 |
間を置いて卒寿怒れり息白く | 蒲生 高郷 |
短日や富士くろぐろと残されて | 阪下美代子 |
落葉雨両手広げて舞う幼女(おさな) | 関口 経子 |
ゴミ出して交す挨拶息白し | 中澤 啓子 |
落葉踏む音を残して寺を出づ | 中野 東音 |
風邪声を謝るラジオ深夜便 | 中村 光男 |
登校の子等のおしゃべり息白し | 野口 浩 |
落葉して日々に遠見の効く窓に | 奈良比佐子 |
冬ぬくし杖持つ友と銀座まで | 服部喜久子 |
冬ぬくし吾へも来客ある土曜 | 服部 健 |
手を擦り吐く息白しバスを待つ | 服部 謙治 |
顔見せの古都に響くや触れ太鼓 | 北郷たかを |
とも綱を繋ぎ港の暮早し | 増田 浪枝 |
白息や少年いつもぶつきらぼう | 松倉美智子 |
落葉焚故郷の匂ひ運び来る | 水野 写六 |
曉暗の冬の満月天頂に | 守田 和之 |
老友の背消えて行く短き日 | 大野 章 |
平成27年11月1日(日) 於 代々木倶楽部
兼題 【 石蕗の花、行秋、蜜柑 】
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胸赤きなるまでこすり朝の鵙 | 先生 奈良 文夫 |
病妻の手を曳く街や冬落暉 | 大野 章 |
行く秋の盛塩高き山の茶屋 | 大野 鶴子 |
人の声時々洩るる蜜柑山 | 蒲生 高郷 |
涛音の届く小径や石蕗の花 | 阪下美代子 |
石蕗咲いて仕立て直しの黄八丈 | 関口 経子 |
行秋や地酒一本届きをり | 中澤 啓子 |
岬山(さきやま)に一番星や鳥渡る | 中野 東音 |
置手紙重しにひとつ青蜜柑 | 中村 光男 |
山間(やまあい)の風布(ふっぶ)の里やみかん狩 | 野口 浩 |
寺町や蜜柑明りの何でも屋 | 奈良比佐子 |
逝く秋や少し弱気となりて夫 | 服部喜久子 |
小春の日の続く予報に笑みこぼれ | 服部 謙治 |
反り返る寺の大屋根昼の月 | 北郷たかを |
裏木戸をくぐるやほのと石蕗の花 | 増田 浪枝 |
五郎丸に釜石ラガー偲ぶ秋 | 松倉美智子 |
行く秋や遠くで父母が呼んでゐる | 水野 写六 |
露天湯に紅葉の山を仰ぎをり | 守田 和之 |
平成27年10月11日(日) 於 代々木倶楽部
兼題 【 稲、秋高し、林檎 】
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津波禍の月命日の彼岸花 | 先生 奈良 文夫 |
露天湯に眼下の澄める瀬音聴く | 守田 和之 |
阿夫利峯やバス縫って行く稲の道 | 大野 章 |
石鎚山(いしづち)はあれかこれかと稲穂越し | 大野 鶴子 |
雨過ぎてりんご輝く信州路 | 阪下美代子 |
葛の花覆う道標塩の道 | 関口 経子 |
天高し校内放送響く午後 | 中澤 啓子 |
木道にきて深呼吸秋高し | 中野 東音 |
秒読みに入るロケット天高し | 中村 光男 |
夕日なか老農ひとりの稲刈機 | 野口 浩 |
丘はみな古墳に見えて柿たわわ | 奈良比佐子 |
秋茄子の莖葉大きくなぞへ畑 | 服部喜久子 |
雨上がり虹に喜ぶ母子かな | 服部 謙治 |
頂上は雲の上なり林檎食(は)ぶ | 北郷たかを |
黒酢甕数多並んで天高し | 増田 浪枝 |
初紅葉二才と元気に答へられ | 松倉美智子 |
電線の交差する辻天高し | 水野 写六 |
平成27年9月6日(日) 於 代々木倶楽部
兼題 【 赤のまま、残暑、西瓜 】
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お互に顎突き出して西瓜食ふ | 先生 奈良 文夫 |
家族みなやつと揃へり西瓜切る | 水野 写六 |
散歩道妻の手折りし赤のまま | 守田 和之 |
白球の行方追う子や赤まんま | 大野 章 |
手庇に夫を見送る残暑光 | 大野 鶴子 |
西瓜渡すぞ赤子落としてなるまいぞ | 蒲生 高郷 |
歩き初む子の靴先に白木槿 | 阪下美代子 |
新涼やカラフルな靴走り行く | 関口 経子 |
秋めくや買い物帰りの美容院 | 中澤 啓子 |
西瓜抱き子の家へ向かふバスの中 | 中野 東音 |
雁渡るたたらの鉄のふいご跡 | 中村 光男 |
残暑見舞出しぞびれたり今日も雨 | 野口 浩 |
大西日に向ひ青年バイク駆る | 奈良比佐子 |
秋めくやただ薄雲の走る夜半 | 服部喜久子 |
介護士の婚約指輪さはやかに | 服部 健 |
ふらついてどこに向うか西瓜割り | 服部 謙治 |
秋暑し時々動く河馬の耳 | 北郷たかを |
一隅に弾かないピアノ秋暑し | 増田 浪枝 |
あの頃の子が子をつれて秋祭 | 松倉美智子 |
平成27年8月2日(日) 於 代々木倶楽部
兼題【 凌霄花(のうぜんか)、夏の月、枝豆 】
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妻に添はれ横断歩道夏の月 | 先生 奈良 文夫 |
整骨院ふえし町筋凌霄花 | 松倉美智子 |
暮れなづむのうぜんかづら咲く辺り | 水野 写六 |
枝豆をつまみに一家の金曜日 | 守田 和之 |
手を振って妻見送ってさて昼寝 | 大野 章 |
葉隠ラーメン木耳(きくらげ)載せて運ばるる | 大野 鶴子 |
橋の上を行ったり来たり夏の月 | 蒲生 高郷 |
隠退の力士の汗の清清し | 阪下美代子 |
露天湯に語らう母娘夏の月 | 関口 経子 |
猛暑日の思考回路も溶けにけり | 中澤 啓子 |
八月の空語り継ぐもの多し | 中野 東音 |
観覧車ゆるりと廻り夏の月 | 中村 光男 |
凌霄花橋の袂の町工場 | 野口 浩 |
やうやくに風来る庭よ夏の月 | 奈良比佐子 |
夕涼し素顔の友を見舞ひ来し | 服部喜久子 |
炎天の我が古希の日に母は逝き | 服部 謙治 |
鯖鮨の背ナに走れる海の青 | 北郷たかを |
終バスのテールランプや夏の月 | 増田 浪枝 |
平成27年7月5日(日) 於 代々木倶楽部
兼題【 合歓の花、麦茶、夕焼 】
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戦災悲話氷菓へ突き刺す木のスプーン | 先生 奈良 文夫 |
座席みなスマホ繰るひと窓夕焼 | 増田 浪枝 |
夏雲を越えし機影のそれっきり | 松倉美智子 |
錦織に冷たきむぎ茶飲ませたし | 水野 写六 |
紫陽花の花咲き散りて六甲山 | 毛利 寿子 |
高速路の側面飾る凌霄花 | 守田 和之 |
勤めゐしビル振り仰ぐ夕焼かな | 大野 章 |
海風に摘みし昼顔攫わるる | 大野 鶴子 |
何もない北の岬の大夕焼け | 蒲生 高郷 |
大夕焼機影輝く山脈に | 阪下美代子 |
フィトネス終えて一気に麦茶干す | 関口 経子 |
ダム湖へのこの道合歓の花つづく | 中澤 啓子 |
眠られぬままに探して夏の月 | 中野 東音 |
競漕の艇戻りくる夕焼空 | 中村 光男 |
縁側に麦茶と茶菓子中休み | 野口 浩 |
梅雨夕焼一人テニスの音続く | 奈良比佐子 |
ちちの文机ははのオルガン夕焼くる | 服部喜久子 |
シャガールの羊踊るや夕焼空 | 北郷たかを |
平成27年6月14日(日) 於 代々木倶楽部
兼題「 萬緑、薔薇、鰻 」
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氷菓舐(な)む波跳ね上げて孤(ひと)つ岩 | 先生 奈良 文夫 |
祭着の幼は紅き眉を曳き | 北郷たかを |
卯の花腐し昭和の歌手のかすれ声 | 松倉美智子 |
マドンナの昔変わらぬ夏帽子 | 水野 写六 |
新緑や若者の声満ち満ちて | 毛利 寿子 |
(ケンブリッジにて) | |
残雪の甲斐駒仰ぐ高速路 | 守田 和之 |
鰻重の出て静まりぬクラス会 | 大野 章 |
長崎やクルスの空に枇杷熟るる | 大野 鶴子 |
大股に行く万緑の風の中 | 蒲生 高郷 |
武蔵野のはづれに住まひ五月富士 | 阪下美代子 |
山法師背伸びして見る箱根山 | 関口 経子 |
紙飛行機若葉かすめて戻り来る | 中澤 啓子 |
鐘の音の風や武蔵野夕焼けて | 中野 東音 |
万緑を跨いで過ぐるモノレール | 中村 光男 |
父よりも大き白シャツ干されあり | 奈良比佐子 |
暮れきらぬ一人のテラス薔薇香る | 服部喜久子 |
バス停にふと気がつけば日傘(かさ)の中 | 服部謙治 |
平成27年5月7日(木) 於 代々木倶楽部
兼題「 牡丹、夏めく、新茶 」
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杖胼胝(だこ)にかすかな疼き牡丹の芽 | 先生 奈良 文夫 |
薄雲のはつかに五月八十路来る | 服部喜久子 |
夏めくや甲斐駒真昼の日をはじき | 北郷たかを |
ひさびさの友も白髪蝶の昼 | 松倉美智子 |
パソコンを閉じて新茶に向かひたり | 水野 写六 |
夏めける稲村ケ崎波荒し | 守田 和之 |
夏めくや厨に開く鎧窓 | 大野 章 |
宝塚劇場満席昭和の日 | 大野 鶴子 |
言い負けて尚淡々と古茶入るる | 蒲生 高郷 |
夏めくや山稜に湧く白き雲 | 阪下美代子 |
朝掘りの竹の子はあり友呼ばふ | 関口 経子 |
若葉風軽く背を押す坂の道 | 中澤 啓子 |
嬉しさもかなしびものせ春の海 | 中野 東音 |
飾り武具そつと太刀抜く男児(おのこ)かな | 中村 光男 |
ドリブルでボールと戻る紅つつじ | 奈良比佐子 |
平成27年3月29日(日) 於 代々木倶楽部
兼題「 土筆(つくし)、水温む、春眠 」
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寝返りを打ち春眠へ沈み込む | 先生 奈良 文夫 |
つくしんぼ屈み数へて限(きり)もなし | 奈良比佐子 |
春なれや少年壁へ球投ぐる | 服部喜久子 |
春昼やゆつくり伸びる亀の首 | 北郷たかを |
パンジーに囲まれ幸せそうな家 | 松倉美智子 |
同窓の傘寿の集ひ水温む | 水野 写六 |
水温むメダカ湧き出る露地の甕 | 毛利 寿子 |
鶯の啼き繋ぐ径柞森(こみちははそもり) | 守田 和之 |
父母に誰(た)が供花(くげ)賜ひしや入り彼岸 | 大野 章 |
注連(しめ)張られ今年限りの土筆かな | 大野 鶴子 |
春眠や金の指輪の重たさに | 蒲生 高郷 |
春眠の醒(さ)めてまぶしむ朝の富士 | 阪下美代子 |
茶花にと父が手植えし土佐水木 | 関口 経子 |
春眠や夢の続きは又明日(あした) | 中澤 啓子 |
椿落つ鎌倉みちのお地蔵に | 中野 東音 |
桜前線予報士の声昂(たか)まりぬ | 中村 光男 |
平成27年3月1日(日) 於 代々木倶楽部
兼題「 残雪、若布(わかめ)、冴返る 」
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稜線の一処はつかに雪残る | 先生 奈良 文夫 |
陽炎やよたりよたりと猫車 | 中村 光男 |
また一人役者が星に冴え返る | 奈良比佐子 |
春雨や大寺屋根をひからせて | 服部喜久子 |
だしぬけに癌の告知や冴返る | 北郷たかを |
子が直してくれしパソコン二月尽 | 水野 写六 |
新若布カリット干して色あえか | 毛利 寿子 |
雪やんで暁(あけ)の満月耿々(こうこう)と | 守田 和之 |
塾の灯の一つ残りて冴返る | 大野 章 |
赤白の洗濯挟(ばさみ)若布干す | 大野 鶴子 |
舟足の重げに戻る若布採り | 阪下美代子 |
残雪をすべりて来しか今日の風 | 中澤 啓子 |
送られて来し復興の新若布 | 中野 東音 |
* 猫車=土砂・野菜などを運ぶための一輪の手押車。
* あえか=美しくかよわげなさま。はかなげなさま。
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平成27年2月1日(日) 於 代々木倶楽部
兼題「 梅、悴(かじか)む、薄氷(うすらい) 」
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山の日をのせて池芯のうす氷 | 先生 奈良 文夫 |
ほんのりと伊豆の島々梅日和 | 中野 東音 |
悴むやまたも出てこぬ知人の名 | 中村 光男 |
予報士の棒の先より雪だるま | 奈良比佐子 |
肩へ乗る早春の日や詩(うた)なさな | 服部喜久子 |
雪激し夜汽車の尾燈見え隠れ | 北郷たかを |
交差点焼芋の匂ひほのとして | 松倉美智子 |
梅一枝添えられてきし御膳かな | 水野 写六 |
薄氷を壊し登校忘れゐし | 毛利 寿子 |
白梅の咲き初む径(こみち)昼日差 | 守田 和之 |
送り出す後ろ姿にしぐれけり | 蒲生 郷 |
朝の日を返す野川の薄氷 | 阪下美代子 |
悴む手母に差し出す甘えん坊 | 関口 経子 |
悴む手ポケットの中で解(ほど)けゆく | 中澤 啓子 |
平成27年1月11日(日) 代々木倶楽部
兼題 「 年末・新年雑詠 」
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沈めては放つ柚(ゆ)跳ねて香りけり | 先生 奈良 文夫 |
参拝の列に蝋梅香りけり | 中澤 啓子 |
鳶の輪にかがやく雪の比叡かな | 中野 東音 |
注連縄の紙垂(しで)ひらひらと過疎の村 | 中村 光男 |
棚奥の大皿出すも年用意 | 奈良比佐子 |
雪原に光一条初日の出 | 北郷たかを |
起重機の空突きしまま三ケ日 | 松倉美智子 |
さざん花や人待ち顔に咲いてゐる | 水野 写六 |
冬雀隅田の一樹に群がりぬ | 毛利 寿子 |
年の瀬の温泉(いでゆ)のあとの夕茜 | 守田 和之 |
一刷毛(はけ)の広重ブルー初山河 | 大野 章 |
八十路代過ぐる早さや年新た | 大野 鶴子 |
横たえる徳利に年を惜しむかな | 蒲生 郷 |
遠山の空ふかぶかと寒に入る | 阪下美代子 |
ごつごつと両手に余る八ツ頭 | 関口 経子 |
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