平成27年の作品集

12月例会作品 第273回

平成27年12月6日(日) 於 代々木倶楽部

  
兼題 【 落葉、短日、息白し 】


やうやくに空車の赤灯暮れ早し
先生
 奈良 文夫
枯れきつて多摩の川原や鳥の声 大野 鶴子
間を置いて卒寿怒れり息白く 蒲生 高郷
短日や富士くろぐろと残されて 阪下美代子
落葉雨両手広げて舞う幼女(おさな) 関口 経子
ゴミ出して交す挨拶息白し 中澤 啓子
落葉踏む音を残して寺を出づ 中野 東音
風邪声を謝るラジオ深夜便 中村 光男
登校の子等のおしゃべり息白し 野口  浩
落葉して日々に遠見の効く窓に 奈良比佐子
冬ぬくし杖持つ友と銀座まで 服部喜久子
冬ぬくし吾へも来客ある土曜 服部  健
手を擦り吐く息白しバスを待つ 服部 謙治
顔見せの古都に響くや触れ太鼓 北郷たかを
とも綱を繋ぎ港の暮早し  増田 浪枝
白息や少年いつもぶつきらぼう 松倉美智子
落葉焚故郷の匂ひ運び来る 水野 写六
曉暗の冬の満月天頂に  守田 和之
老友の背消えて行く短き日 大野  章

11月例会作品 第272回

平成27年11月1日(日) 於 代々木倶楽部

兼題 【 石蕗の花、行秋、蜜柑 】


胸赤きなるまでこすり朝の鵙
先生
 奈良 文夫
病妻の手を曳く街や冬落暉 大野  章
行く秋の盛塩高き山の茶屋 大野 鶴子
人の声時々洩るる蜜柑山 蒲生 高郷
涛音の届く小径や石蕗の花 阪下美代子
石蕗咲いて仕立て直しの黄八丈 関口 経子
行秋や地酒一本届きをり 中澤 啓子
岬山(さきやま)に一番星や鳥渡る 中野 東音
置手紙重しにひとつ青蜜柑 中村 光男
山間(やまあい)の風布(ふっぶ)の里やみかん狩 野口  浩
寺町や蜜柑明りの何でも屋 奈良比佐子
逝く秋や少し弱気となりて夫 服部喜久子
小春の日の続く予報に笑みこぼれ 服部 謙治
反り返る寺の大屋根昼の月 北郷たかを
裏木戸をくぐるやほのと石蕗の花 増田 浪枝
五郎丸に釜石ラガー偲ぶ秋 松倉美智子
行く秋や遠くで父母が呼んでゐる 水野 写六
露天湯に紅葉の山を仰ぎをり 守田 和之

10月例会作品 第271回

平成27年10月11日(日) 於 代々木倶楽部

兼題 【 稲、秋高し、林檎 】


津波禍の月命日の彼岸花
先生
 奈良 文夫
露天湯に眼下の澄める瀬音聴く 守田 和之
阿夫利峯やバス縫って行く稲の道  大野  章
石鎚山(いしづち)はあれかこれかと稲穂越し 大野 鶴子
雨過ぎてりんご輝く信州路 阪下美代子
葛の花覆う道標塩の道  関口 経子
天高し校内放送響く午後 中澤 啓子
木道にきて深呼吸秋高し 中野 東音
秒読みに入るロケット天高し 中村 光男
夕日なか老農ひとりの稲刈機 野口  浩
丘はみな古墳に見えて柿たわわ 奈良比佐子
秋茄子の莖葉大きくなぞへ畑 服部喜久子
雨上がり虹に喜ぶ母子かな 服部 謙治
頂上は雲の上なり林檎食(は)ぶ 北郷たかを
黒酢甕数多並んで天高し 増田 浪枝
初紅葉二才と元気に答へられ 松倉美智子
電線の交差する辻天高し 水野 写六

9月例会作品 第270回

平成27年9月6日(日) 於 代々木倶楽部

兼題 【 赤のまま、残暑、西瓜 】


お互に顎突き出して西瓜食ふ
先生
 奈良 文夫
家族みなやつと揃へり西瓜切る 水野 写六
散歩道妻の手折りし赤のまま 守田 和之
白球の行方追う子や赤まんま 大野  章
手庇に夫を見送る残暑光 大野 鶴子
西瓜渡すぞ赤子落としてなるまいぞ 蒲生 高郷
歩き初む子の靴先に白木槿 阪下美代子
新涼やカラフルな靴走り行く 関口 経子
秋めくや買い物帰りの美容院 中澤 啓子
西瓜抱き子の家へ向かふバスの中 中野 東音
雁渡るたたらの鉄のふいご跡 中村 光男
残暑見舞出しぞびれたり今日も雨 野口  浩
大西日に向ひ青年バイク駆る 奈良比佐子
秋めくやただ薄雲の走る夜半 服部喜久子
介護士の婚約指輪さはやかに 服部  健
ふらついてどこに向うか西瓜割り 服部 謙治
秋暑し時々動く河馬の耳 北郷たかを
一隅に弾かないピアノ秋暑し 増田 浪枝
あの頃の子が子をつれて秋祭 松倉美智子

8月例会作品 第269回

平成27年8月2日(日) 於 代々木倶楽部

兼題【 凌霄花(のうぜんか)、夏の月、枝豆 】


妻に添はれ横断歩道夏の月
先生
 奈良 文夫
整骨院ふえし町筋凌霄花 松倉美智子
暮れなづむのうぜんかづら咲く辺り 水野 写六
枝豆をつまみに一家の金曜日 守田 和之
手を振って妻見送ってさて昼寝 大野  章
葉隠ラーメン木耳(きくらげ)載せて運ばるる 大野 鶴子
橋の上を行ったり来たり夏の月 蒲生 高郷
隠退の力士の汗の清清し 阪下美代子
露天湯に語らう母娘夏の月 関口 経子
猛暑日の思考回路も溶けにけり 中澤 啓子
八月の空語り継ぐもの多し 中野 東音
観覧車ゆるりと廻り夏の月 中村 光男
凌霄花橋の袂の町工場 野口  浩
やうやくに風来る庭よ夏の月 奈良比佐子
夕涼し素顔の友を見舞ひ来し 服部喜久子
炎天の我が古希の日に母は逝き 服部 謙治
鯖鮨の背ナに走れる海の青 北郷たかを
終バスのテールランプや夏の月 増田 浪枝

7月例会作品 第268回

平成27年7月5日(日) 於 代々木倶楽部

兼題【 合歓の花、麦茶、夕焼 】


戦災悲話氷菓へ突き刺す木のスプーン
先生
 奈良 文夫
座席みなスマホ繰るひと窓夕焼 増田 浪枝
夏雲を越えし機影のそれっきり 松倉美智子
錦織に冷たきむぎ茶飲ませたし 水野 写六
紫陽花の花咲き散りて六甲山 毛利 寿子
高速路の側面飾る凌霄花 守田 和之
勤めゐしビル振り仰ぐ夕焼かな 大野  章
海風に摘みし昼顔攫わるる 大野 鶴子
何もない北の岬の大夕焼け 蒲生 高郷
大夕焼機影輝く山脈に 阪下美代子
フィトネス終えて一気に麦茶干す 関口 経子
ダム湖へのこの道合歓の花つづく 中澤 啓子
眠られぬままに探して夏の月 中野 東音
競漕の艇戻りくる夕焼空 中村 光男
縁側に麦茶と茶菓子中休み 野口  浩
梅雨夕焼一人テニスの音続く 奈良比佐子
ちちの文机ははのオルガン夕焼くる 服部喜久子
シャガールの羊踊るや夕焼空 北郷たかを

6月例会作品 第267回

平成27年6月14日(日) 於 代々木倶楽部

兼題「 萬緑、薔薇、鰻 」


氷菓舐(な)む波跳ね上げて孤(ひと)つ岩
先生
 奈良 文夫
祭着の幼は紅き眉を曳き 北郷たかを
卯の花腐し昭和の歌手のかすれ声 松倉美智子
マドンナの昔変わらぬ夏帽子 水野 写六
新緑や若者の声満ち満ちて 毛利 寿子

(ケンブリッジにて)

残雪の甲斐駒仰ぐ高速路 守田 和之
鰻重の出て静まりぬクラス会 大野  章
長崎やクルスの空に枇杷熟るる 大野 鶴子
大股に行く万緑の風の中 蒲生 高郷
武蔵野のはづれに住まひ五月富士 阪下美代子
山法師背伸びして見る箱根山 関口 経子
紙飛行機若葉かすめて戻り来る 中澤 啓子
鐘の音の風や武蔵野夕焼けて 中野 東音
万緑を跨いで過ぐるモノレール 中村 光男
父よりも大き白シャツ干されあり 奈良比佐子
暮れきらぬ一人のテラス薔薇香る 服部喜久子
バス停にふと気がつけば日傘(かさ)の中 服部謙治

5月例会作品 第266回

平成27年5月7日(木) 於 代々木倶楽部

兼題「 牡丹、夏めく、新茶 」


杖胼胝(だこ)にかすかな疼き牡丹の芽
先生
 奈良 文夫
薄雲のはつかに五月八十路来る 服部喜久子
夏めくや甲斐駒真昼の日をはじき 北郷たかを
ひさびさの友も白髪蝶の昼 松倉美智子
パソコンを閉じて新茶に向かひたり 水野 写六
夏めける稲村ケ崎波荒し 守田 和之
夏めくや厨に開く鎧窓 大野  章
宝塚劇場満席昭和の日 大野 鶴子
言い負けて尚淡々と古茶入るる 蒲生 高郷
夏めくや山稜に湧く白き雲 阪下美代子
朝掘りの竹の子はあり友呼ばふ 関口 経子
若葉風軽く背を押す坂の道 中澤 啓子
嬉しさもかなしびものせ春の海 中野 東音
飾り武具そつと太刀抜く男児(おのこ)かな 中村 光男
ドリブルでボールと戻る紅つつじ 奈良比佐子

4月例会作品 第265回

平成27年3月29日(日) 於 代々木倶楽部

兼題「 土筆(つくし)、水温む、春眠 」


寝返りを打ち春眠へ沈み込む
先生
 奈良 文夫
つくしんぼ屈み数へて限(きり)もなし 奈良比佐子
春なれや少年壁へ球投ぐる 服部喜久子
春昼やゆつくり伸びる亀の首 北郷たかを
パンジーに囲まれ幸せそうな家 松倉美智子
同窓の傘寿の集ひ水温む 水野 写六
水温むメダカ湧き出る露地の甕 毛利 寿子
鶯の啼き繋ぐ径柞森(こみちははそもり) 守田 和之
父母に誰(た)が供花(くげ)賜ひしや入り彼岸 大野  章
注連(しめ)張られ今年限りの土筆かな 大野 鶴子
春眠や金の指輪の重たさに 蒲生 高郷
春眠の醒(さ)めてまぶしむ朝の富士 阪下美代子
茶花にと父が手植えし土佐水木 関口 経子
春眠や夢の続きは又明日(あした) 中澤 啓子
椿落つ鎌倉みちのお地蔵に 中野 東音
桜前線予報士の声昂(たか)まりぬ 中村 光男

 * 柞=コナラなど、ブナ科コナラ属の植物の別名。

3月例会作品 第264回

平成27年3月1日(日) 於 代々木倶楽部

兼題「 残雪、若布(わかめ)、冴返る 」


稜線の一処はつかに雪残る
先生
 奈良 文夫
陽炎やよたりよたりと猫車 中村 光男
また一人役者が星に冴え返る 奈良比佐子
春雨や大寺屋根をひからせて 服部喜久子
だしぬけに癌の告知や冴返る 北郷たかを
子が直してくれしパソコン二月尽 水野 写六
新若布カリット干して色あえか 毛利 寿子
雪やんで暁(あけ)の満月耿々(こうこう)と 守田 和之
塾の灯の一つ残りて冴返る 大野 章
赤白の洗濯挟(ばさみ)若布干す 大野 鶴子
舟足の重げに戻る若布採り 阪下美代子
残雪をすべりて来しか今日の風 中澤 啓子
送られて来し復興の新若布 中野 東音

 * 猫車=土砂・野菜などを運ぶための一輪の手押車。
 * あえか=美しくかよわげなさま。はかなげなさま。

2月例会作品 第263回

平成27年2月1日(日) 於 代々木倶楽部

兼題「 梅、悴(かじか)む、薄氷(うすらい) 」


山の日をのせて池芯のうす氷
先生
 奈良 文夫
ほんのりと伊豆の島々梅日和 中野 東音
悴むやまたも出てこぬ知人の名 中村 光男
予報士の棒の先より雪だるま 奈良比佐子
肩へ乗る早春の日や詩(うた)なさな 服部喜久子
雪激し夜汽車の尾燈見え隠れ 北郷たかを
交差点焼芋の匂ひほのとして 松倉美智子
梅一枝添えられてきし御膳かな 水野 写六
薄氷を壊し登校忘れゐし 毛利 寿子
白梅の咲き初む径(こみち)昼日差 守田 和之
送り出す後ろ姿にしぐれけり 蒲生 郷
朝の日を返す野川の薄氷 阪下美代子
悴む手母に差し出す甘えん坊 関口 経子
悴む手ポケットの中で解(ほど)けゆく 中澤 啓子

1月初句会作品 第262回

平成27年1月11日(日) 代々木倶楽部

兼題 「 年末・新年雑詠 」


沈めては放つ柚(ゆ)跳ねて香りけり
先生
 奈良 文夫
参拝の列に蝋梅香りけり 中澤 啓子
鳶の輪にかがやく雪の比叡かな 中野 東音
注連縄の紙垂(しで)ひらひらと過疎の村 中村 光男
棚奥の大皿出すも年用意 奈良比佐子
雪原に光一条初日の出 北郷たかを
起重機の空突きしまま三ケ日 松倉美智子
さざん花や人待ち顔に咲いてゐる 水野 写六
冬雀隅田の一樹に群がりぬ 毛利 寿子
年の瀬の温泉(いでゆ)のあとの夕茜 守田 和之
一刷毛(はけ)の広重ブルー初山河 大野  章
八十路代過ぐる早さや年新た 大野 鶴子
横たえる徳利に年を惜しむかな 蒲生 郷
遠山の空ふかぶかと寒に入る 阪下美代子
ごつごつと両手に余る八ツ頭 関口 経子